スタンド観戦で対抗策に気づく…中日・小笠原が支配した“時間と試合” タイムを取られる側から取らせる側へ

◇渋谷真コラム「龍の背に乗って」

◇8日 中日1―4巨人(バンテリン)

 スポーツには「試合を支配する」という言い回しがある。野球ならフィールドの主導権を握るというニュアンスだろうか。7イニングを1失点。負け投手にはなったが、この日の試合を支配していたのは小笠原だ。

 1回無死一塁。萩尾に対して、小笠原は1球ごとにセットポジションに入ったまま5~8秒は止まっていた。たまらず萩尾はタイムを要求。3球で追い込み、5球目で右邪飛に打ち取った。

 4回の1死一塁では打者・岸田を再びロングセットでじらした上で、走者の長野にけん制球を3度続けた。通常のセットポジションは2~4秒あたりで長短をつける。彼は時間を使って試合を支配しようとしたのだ。

 伏線は4月にさかのぼる。27日の広島戦を、彼はバンテリンドームのスタンドで見学した。ベンチ外の先発投手は、ロッカールームでテレビを見て、治療やトレーニングが終われば先に帰宅する。なぜスタンドだったのか。いつもとは違う高い場所から、試合を俯瞰(ふかん)したかったのだ。その理由は23日の巨人戦(ひたちなか)にある。小笠原は7イニング2失点(自責点1)で負けた。ただ、今回と同じクオリティースタートではあるが、打者の「タイム」にいら立っていた。恐らくは巨人の小笠原対策だ。

 スタンド観戦を知った僕は、野球規則5・04を読み返した。そこにはこう書いている。

 投手がセットポジションをとってから、審判員は打者から「いかなる要求があっても“タイム”を宣告してはならない」。目にゴミが入ろうが、メガネがくもろうが、である。つまり、正当なタイムではないのだが、現実には宣告される。裏を返せば、攻撃側がそうするのはその投手が手ごわいと感じていて、何とか揺さぶろうと考えているからだ。

 ピッチクロックが導入されれば攻守ともにできない策だが、小笠原はタイムを取られる側から、取らせる側に回ったのだ。なぜ自分がいら立つかを考え、仲間の試合を上から見下ろすことで対抗策を知った。負けはしたが、試合は支配した。残念な敗戦の、それが救いである。

2024-05-09T02:02:12Z dg43tfdfdgfd