「寮のルールを守らないどころか…」青学大が学生を「記録優先」でスカウトしていた頃…原晋監督と妻が“箱根駅伝”予選会惨敗で考えたこと―2024上半期読まれた記事

2023ー24年の期間内(対象:2023年12月~2024年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。箱根駅伝部門の第1位は、こちら!(初公開日 2024年1月3日/肩書などはすべて当時)。

今年も箱根駅伝が開幕する。前回大会で駒澤大に王座を明け渡した青山学院大は、どのような逆襲の走りを見せるだろうか。

原晋監督、そして学生たちを支えるのが、寮母を務める原美穂さんだ。寮母という立場から青学の強さの秘密を解き明かす、原美穂さん著『フツーの主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校になるまでを支えた39の言葉』(アスコム刊)から、「監督就任3年目の苦悩とスカウティング」に関する章を抜粋して紹介します(全3回の2回目/#3につづく)。

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 3年契約で就任した監督が率いた青山学院大学陸上競技部は、最初の予選会で16位、翌年は13位、その翌年は16位という結果に終わり、3年続けて本選出場を果たすことはできませんでした。監督はこのまま契約が解除されるのが既定路線でした。

 ただ、3年目の予選会での敗退が決まったとき、わたしが最初にしたことは、新しい職を探すことでも、広島へ帰るために荷物をまとめることでもありませんでした。やったのは、監督を焚きつけることでした。

「もう1年、やらせてもらえるように大学に頼んで。土下座してでも!」

寮のルールを守らないどころか、周りに悪影響を…

 最終年の16位という順位は、決して期待していたようなものではありませんでした。もっと上を目指していたはずなのに、前年よりも順位を落としてしまったその最大の理由は、寮、つまり部内がだいぶがたついていたことにあると思います。

 この年がラストイヤーになると思っていた監督は、前年、高校生のスカウティングの方針を変えていました。それまでは記録もさることながら人間性をかなり重視してスカウティングをしていたのですが、その年は、とにかく結果を出そうと、人間性は後回しにし、記録優先で高校生を集めたのです。そこには、監督が旧知の高校の先生からは「あの子は採らないほうがいい」と言われた子も含まれていました。それでも監督は、その子も箱根駅伝には出たいだろうから、きっと生活を改めるだろうと期待、いえ、信じたようです。

 ところが、それが裏目に出ました。

 高校の先生の指摘は正しかった。その子は、寮のルールを守らないどころか、周りに悪影響を与えるようになりました。しかし陸上の実力はぬきんでているので、先輩もあまり強く言えない。

 結局、この年の新入生は歯が抜けるように辞めていきました。もちろん残った子もいたのですが、実力者が抜けていくことには不安を覚えたでしょう。16位という結果に終わったのには、こういった背景があったのです。3年間の努力は水泡に帰したような気がしました。

「あと1年あれば…」原監督と妻が抱いていた予感

 でもそれよりも強かったのは、ここであきらめたくないという思いでした。今、辞めるなんて、誰にでもできます。どん底で投げ出すのは、楽でもあります。あと1年やらせてもらえたとしても、やっぱり箱根には届かなくて「こんなことならあのとき辞めておけばよかった」と思うかもしれません。

 40歳を目前にした監督も、新しい仕事を探すなら、1日でも早いほうがいいはずです。でも、そんなことよりもわたしは、毎日頑張っているこの子たちを、どうしても箱根に出してあげたい。あと1年あれば、それもできるのではないかと思っていました。

 4年目には、監督の就任と同時に入学・入部してきた子たちが最上級生になります。1年生のときからずっと一緒にやってきた彼らなら、箱根に届くのではないか。その思いは、半ば願望でもありましたが、半ば、根拠のあるものでもありました。陸上を知らなかったわたしも、3年かけて少しずつ学んでいました。来年ならいけるかも、という予感があったのです。

大学理事たちの前で、必死のプレゼン

 監督は大学の理事たちを前に、あと少しで箱根に届くところまできている、学生たちも厳しい寮生活にたえて頑張っている……、と必死にプレゼンをしました。また、この年に最上級生になった学生たちも、原監督と一緒に箱根に出たい、もう1年原監督でやってほしいと大学に言ってくれました。こうしてようやく、1年間の任期延長を手にしました。

 学生と監督とわたしの「このままでは終われない」という強い気持ちが、箱根駅伝にまた挑戦できるチャンスをもたらしたのだと思います。

<続く>

―2024上半期箱根駅伝部門 BEST5

1位:「寮のルールを守らないどころか…」青学大が学生を「記録優先」でスカウトしていた頃…原晋監督と妻が“箱根駅伝”予選会惨敗で考えたこと

https://number.bunshun.jp/articles/-/861400

2位:「はっきり言えば、クビでした」青学大・原晋監督が実業団ランナーを引退した日…「会社員としても戦力外に近かった」元選手サラリーマンの逆転物語https://number.bunshun.jp/articles/-/861399

3位:「圭汰が抜かれるなんて…」駒澤大の食堂は静まり返った「こんなこと今までなかった」監督&選手が証言する“最強軍団が青学大に完敗するまで”

https://number.bunshun.jp/articles/-/861398

4位:中継車に「どきなさい!」箱根駅伝10区、早稲田vs東洋“21秒差の決戦”のウラにあった審判長の指示…敗れた東洋・酒井監督「御礼を述べたい」

https://number.bunshun.jp/articles/-/861397

5位:箱根駅伝出場の4年生は卒業後、何をする? 有力選手の進路先一覧「トヨタ、ホンダ、スズキと名門ズラリの中央大」「箱根好走でも引退する選手もhttps://number.bunshun.jp/articles/-/861396

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